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『密会』 安部公房

 正月に地元の古本屋で見つけた。これで14冊目の安部公房。新潮文庫では残るは2冊。廃版になったのとか見つからないかなぁ。この作品は『箱男』の次に書かれた作品らしく、解説でも述べられている通り、『箱男』が覗き屋の小説ならば、この『密会』は盗聴者の小説。『箱男』のように、男がノートを書きながら物語が進む。

 突然救急車で連れ出され、病院内で失踪した妻を、主人公の男は録音テープを手がかりに探す。その過程で、男は自らも病院という異常者たちの空間にすっかり迷い込んでいく。
もしかすると妻はとうに家に戻って、男を待ち受けているのかもしれない。p100
 『燃えつきた地図』を思い出させる、失踪者と追跡者がいつの間にか入れ替わってしまう構図。それはまさに“自分との鬼ごっこ”(p76)である。
 テーマは現代社会における性的表現の氾濫らしく(あとがきより)、病んでいる現代社会=病院に置き換え、奇怪な医者や患者たちが登場する。馬人間とか、身体が綿になる病気とか、発想爆発。
 言葉だけで現実から完全に隔離された空想世界を作り上げてしまう安部公房。その文章力は健在で、今回特に目に留まったのが、比喩。異常な状況をそのまま書くのではなく、その場と全く関係ないような例えで包んで表現している。でもそれが余計に狂気やグロテスクさを際立たせてしまうのが、安部公房的ブラック・ユーモアだったりして。
まるで廃品回収のトラックから逃げだしてきた虫食い人形一座の気違いパーティじゃないか。p128

黴がはえた中華料理の材料のような×××が、金属タワシのような毛と一緒にだらりと垂れ下がっている。p176
 奇抜な発想のみならず、こういう想像を掻き立てる表現力が、安部公房を無性に読みたくさせるのだと思う。結末はなかなか重かった。


by yuzuruzuy | 2011-01-08 19:22 | 読書


つまらない、面倒くさいを、面白く。


by yuzuruzuy

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