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『新しきこと 面白きこと  サントリー・佐治敬三伝』 廣澤昌

 サントリー二代目経営者の佐治敬三の伝記。
 父・信治郎と同じくサントリーと駆け抜けた生涯だった。タイトルでもある「新しきこと 面白きこと」を求め続けた敬三。その元となった言葉はp50に登場する。「エトヴァス・ノイエス」(何か新しいことはないか)。大学で教わっていた教授がドイツに留学し、ノーベル科学賞受賞博士のもとで研究していたとき、その博士が毎日欠かさず朝夕二度、「エトヴァス・ノイエス?」と尋ねたというエピソード。真理の探求に休みはない。そのくらいの心がけで研究しなければと教授は思い返したという。その話から悟った佐治敬三の、常に革新を求め続ける、真剣勝負の毎日が、サントリーを進歩させつづけたのだな。
 2~4章の今も人気のウィスキー製造や、広告、ビール業界参入についての部分はのめりこんで読んだ。なかでもウィスキーに込められた思いに感動した。サントリーウィスキーの歴史は日本ウィスキーの歴史だ。スコッチの蒸留所を訪れ、それまで父が築いてきた道、山崎蒸留所が間違っていなかったことを確認したあと、敬三は決意した。
スコッチはスコッチの道を往け。日本のサントリーはまた堂々と我が道を往くのみ。p64
 原酒や樽の種類についても説明されていて(p66,p86 etc..)、分かり易い。またそれぞれのサントリー銘柄へ込められた思いには、今すぐにでも飲みたくさせるものがあり、部屋に飾っているミニチュアボトルを眺めながら読んだ。「山崎」のラベル文字は、敬三本人によるものだと初めて知った。(p107)「響」の着想は、ブラームスの交響曲第一番から得たというのも興味深かった。No music, No whisky.
敬三は、ウィスキーをアルコール飲料ととらえ、酔いに至らしめる飲物と考える生理的なとらえ方を強く否定した。「豊かな時間」の創出という文化的効用を強調した。(略)良い製品を、じっくりと時間をかけてつくり、人々にゆったりとした楽しい時間を提供する──(p113)

ボトルに封じたのは、降り積もった時間の宝石であり、人々のくつろぎのひとときを開く豊かな時間であった。(略)敬三は、生活文化全般のマスターブレンダーでもあったといえるのである。(p114)
 先にもミニチュアボトルについて書いたが、僕は空けた酒のボトルを部屋に飾っている。その中にはウイスキーの残り香と共に楽しかった思い出の時間が詰まっていると思う。それ以前に、ウィスキー自体にも、たくさんの人々や自然が関わってきた時間が詰まっていたのだなとこの本を読んで実感した。これからひとりで飲むときには、そうした、作り手の時間を共有しながら飲みたい。
 地元関西経済界にとどまらずヨーロッパのワイン農園再興にまで乗り出し、また芸術、音楽などの文化振興と奔走する姿はとてもひとりの人間の一生とは思えない。開高健、カラヤン、安藤忠雄、歴代政治家など、さまざまな人物との出会いから道が開かれ、ひとりの男の人生が、小説のように面白いものになっている。
 子供たちが額の黒子をボタンのように押すと敬三が“ビー”と声を出すというエピソードがとてもいい役割を果たしていた。長女の結婚前と敬三の葬儀での“ビー”には、不覚にも泣きそうになった。(p286,p347)他にも面白いエピソード満載で、読んでいて自然に心楽しくなってくる。ビール一滴で蕁麻疹が出るほど酒に弱かったにも関わらず、人間・佐治敬三に惚れてサントリーに入社したという、元同社コピーライターの著者が書く文章が力強く、サントリーの世界に引き込まれるようだった。
 「真善美」「美感遊創」「エトヴァス・ノイエス」「やってみなはれ」。どれも心に留めておきたい言葉である。



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by yuzuruzuy | 2011-01-19 20:21 | 読書

『やってみなはれ みとくんなはれ』 山口瞳 開高健

 サントリー宣伝部出身、ふたりの作家が綴るサントリー社史。

【青雲の志について ─小説・鳥井信治郎】
 直木賞作家、山口瞳による創業者鳥井信治郎の物語。“サントリーの社史を書くということは、鳥井信治郎の伝記を書くことである”。寿屋から始まったサントリーの歴史は、鳥井信治郎の人生そのものだった。自分も好きな“やってみなはれ”という言葉に隠された歴史が、司馬遼太郎の小説のような熱い文章で描かれている。著者は鳥井信治郎と自らの父親を対比させつつ、そこに似ているものを感じた。仕事にかける突進力…その源を「青雲の志」と名づける。
私は、それを「青雲の志」と名づけたい。そうは言っても、それは、なにやらわけのわからぬものである。明治にあって昭和にないものという言い方ができるかもしれない。当代に最も稀薄なるものといってもいい。p86
 「青雲の志」をエネルギーに、鳥井信治郎とサントリーはとどまることなく驀進する。赤玉ポートワインの売り上げが安定してきたにも関わらず、その資産を注ぎ込んで、前例のない国産ウィスキーの製造に乗り出し、自ら苦難の道を選んで進む。今当たり前のように“サントリーのウィスキー”と呼んでいるものにこれほどの歴史と執念が込められているとは…。そんな明治の青雲の志を感じながら、サントリーを飲みたいと思う。
 「名を捨てて実を取る」(p22)、「陰徳あれば陽報あり」(p38)といった、東京生まれの山口瞳が見た鳥井信治郎の大阪商人的気質や、経営者としてのポリシーにも共感する部分が多かった。文章から創業当時からウィスキー製造まで突き進む寿屋(のちのサントリー)の熱気がむんむん伝わってくる。

【やってみなはれ ─サントリーの七十年・戦後篇】
 芥川賞作家、開高健による戦後サントリーの挑戦の物語。戦後の焼け跡から、日本の復興を引っ張ってきたサントリーの歴史と
二代目・佐治敬三という人物、そしてビールへの挑戦について書かれている。開高健の文章をまともに読むのは初めてだった。
大阪人らしいユーモアを交えた知的な文章だと思った。サントリー・ビールが目指す味に関する、飲みスケについての考察の部分が面白かった。
飲みスケというものは、その昂奮の絶頂時においてこれを観察すれば、怪奇、不可解、泣くもあり、笑うもあり、口から泡をふいて、レロレロと、タハ、オモチロイなどと口走り、朦朧、混沌。さながら赤土のごとくだらしないのであるが、それでいて異様なまでに微細なことを執拗におぼえこみ、肉体にきざんで、いついつまでもこだわるという厄介な特殊反応を持つのである。p268
 前半は戦後復興の中で日本のウィスキーを確立させた時期について。後半は二代目・佐治敬三の物語。
現在のビジネス界の“二代目”といわれる人びとにはしばしば“一代目”、創始者としての父の遺産を継いで、父のそれとは異なる発想と手法においてではあるが、“遺産”を守るだけではなく、それを新鮮にし、活力をあたえ、大跳躍を試み、その成果において“一代目”なのか“二代目”なのかわからなくなる。p253
 そんな人物のなかでも抜群の一人であった佐治敬三のサントリーは、当時サッポロ、アサヒ、キリンの御三家が支配していたビール業界に飛び込んだ。もちろんそこでも苦難の道が待っていた。苦しみながらそこから学び、サントリー・ビールはついに結果を出す。この作品が書かれたのは昭和44年(1969年)。それから40年近くたった現在、ビールがあまり売れないなかでサントリーはプレミアムモルツで成功している。それ以前にこのような物語があったと思うと、感動すら覚える。
 
文中、ここぞというときに出てくる“やってみなはれ”その言葉が出てくるたびにゾクッとする感覚があった。
細心に細心をかさね、起り得るいっさいの事態を想像しておけ。しかし、さいごには踏みきれ。賭けろ。賭けるなら大きく賭けろ。賭けたらひるむな。徹底的に食いさがってはなすな。鳥井信治郎の慣用句“やってみなはれ”にはそういう響きがあった。八十三年の生涯にもっともしばしば彼が使った日本語はこれである。p262
 僕が思っていたような、生半可な言葉とは違いました。
 この本の題名がサントリーの社風そのものだと思う。


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by yuzuruzuy | 2011-01-12 12:05 | 読書

『今夜、すべてのバーで』 中島らも

自身のアルコール依存症の経験をもとにした小説。安いトリスウイスキーを飲みながら読みたい。かなりおしゃれな題名だが主人公はアル中患者。アルコール依存症に関する資料が詳細に引用されていたり、禁断症状による幻覚もとてもリアルで、酒飲み人間には勉強になると思う。文章からもアルコールに酔った臭いがするのに、どこか醒めた視点の小説。酒を飲まない人にはおそらく酒に溺れたダメな男の物語。
「社会生活が問題なんですよ。一歩病院を出たら、飲み屋やバーや自動販売機だらけなんですよ。病院の外はね、アルコールの海なんですよ」
 駅前には飲み屋が立ち並んで、TVをつけたら美味しそうなビールの宣伝ばっかり。世の中自体アルコールにとり憑かれてるじゃないか。こんな台詞にどこか納得してしまうのは、自分の弱さを認めたくないからなのかな。病院で出会った他のアル中患者や、担当の医師との会話でアルコールについて一緒に考える。
 クライマックスの『アルコホリック家族とネットワーク・セッションによる援助・症例(一)』という資料によって、アル中患者が周囲にどれほどの悲劇を生んでしまうのか主人公は思い知る。それがきっかけで退院し、トリスバーでミルクをストレートで頼むラストはとても感動的だった。お酒はほどほどに。


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by yuzuruzuy | 2010-05-11 23:59 | 読書


つまらない、面倒くさいを、面白く。


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