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『プリズンホテル 【3】 冬』 浅田次郎

 いつもより静謐で、切実な、真冬のプリズンホテル。有名登山家、患者を安楽死させた医者、自殺未遂の中学生…。命が大きなテーマとしてずっしりと伝わってくる。
人間はな、死ぬのがふしぎじゃないんだ。生きているのがふしぎなんだ。自分の目でルートを読んで、耳で風の音を聴いて、独りごとで勇気をふるい起こして、手でホールドを握って、足でスタンスを探って、全知全力をつくしていなけりゃ、たちまち死んじまうんだ。おまえはそのことが全然わかっていない。人間がか細い骨と、ブヨブヨした肉の袋だってことを、全然わかっていない。p230
 山登りや医療の用語が使われていた。ヤクザ言葉を筆頭に、いろんな業界言葉を教えてくれる。寒い時期、ひとり籠もって読むのにぴったりの小説。


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by yuzuruzuy | 2010-12-28 17:28 | 読書

『プリズンホテル 【2】 秋』 浅田次郎

 ヤクザと警察の御一行が居合わせた。他のお客もなにやらわけありで、騒ぎが騒ぎを呼ぶ、めちゃくちゃ濃ゆーい一泊二日。
このホテルはわずか一泊二日で、少なくとも十年分の経験をさせてくれる。p380
 もちろん笑えて泣けるシーンがたっぷり。個人的には…支配人のパンツ(ホテルマンの誠意を包む袋p137)に笑。ヤクザと警察、どっちがどっちだか分からなくなるようなキャラたちに笑。支配人の暴走族あがりの息子の成長ぶりに涙。偏屈小説家に尽くすけなげな少女の愛情に涙。何より、登場人物への作者の愛情が伝わってきて、ヤクザも警察も強盗犯もどの人物も愛せるキャラクター。
 最後は、本当の愛ってなんだろうか?憎しみと愛は兄弟なのだろうか?不覚にもそんなことを考えさせられる。プリズンホテルに言けばヒントが見つかるかも。
ここはどこだ。人々が誰にも打ちあけられぬ苦悩を背負い、五体にまとわりつくしがらみをずるずると曳きずってたどり着く場所。「監獄(プリズン)ホテル」の意味を、ぼくは思い知ったのだった──。p281
 支配人がまたしてもカッコいい。
「タキシードを着た極道でございます。ホテルマンという男の道を極めようとしている、ひとりの極道でございます」p338
 ベタでくさい人情話みたいな気もするんだけど、奇想天外な発想で裏切り、期待以上の感動を呼ぶ物語。ほんとすごい。どんどん紐解かれていく小説家・木戸孝乃介の身内の物語も気になる。次も楽しみだ。


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by yuzuruzuy | 2010-12-23 00:07 | 読書

『スパニッシュ・アパートメント』

こういうミニシアター系(?)
久々な気がするけれど、やっぱり好きですね。

フランス人の学生グザヴィエが、
エラスムスという留学制度を使い、
スペインのバルセロナに留学し、
同じように留学してきた欧州各地の学生たちと、
共同生活する中で起こるさまざまな出来事。

最初の上空から見たパリのセーヌ川沿いのシーンや、
バルセロナの街並み、特にグエル公園やサグラダ・ファミリア…
自分も歩いた場所が映り、猛烈に行きたくなる。

バルセロナは自分が一度は住んでみたいと思う街。
しかしアパート暮らしもなかなか大変そうだ。
一緒に暮らしていても、結局孤独を抱えているように思える。
そこは孤独な若者たちの集まる場所なのだ。


グザヴィエ(フランス男)の同居人は(名前は省略)
イギリス女、ドイツ男、イタリア男、スペイン女にデンマーク男
そこへ新しくベルギー女がやって来る。
途中からイギリス女の弟ウィリアムも居候。
まさしく西欧。小さなEUを見るようなもの。
同居人の恋人や家族がしばしば出入りしたり、
プライバシーの問題に敏感な日本人には、
このような生活は耐えられないないかも。
でもそんなあけっぴろげな感覚は少しうらやましくもある。
周りの気遣いに頼らず、自分で主張するべきだというのが
彼らの感覚なのだろう。

イギリス人ウェンディの弟ウィリアムが、
ディナーでひとりだけ楽しく“ワンマン・トーク”をするシーンで
ミラノのホステルで出会ったイギリス人の青年を思い出した。
デリカシーそっちのけで話に夢中になっている姿がそっくり。
島国のせいか他国への一方的なイメージをネタに話すところも。
イギリスの典型的な若者なのかな?

他にも真面目なドイツ人とかテキトーなイタリア人、
温厚なデンマーク人や陽気なスペイン人に、おバカなアメリカ人と、
偏見でできたような、でも妙にリアルな各国の若者。
自分もその中に混じって楽しめる。

いちばんお勧めなのは、ウェンディが浮気相手と部屋にいるときに、
恋人がイギリスから突然訪ねてきて、同居人たちが、
浮気現場を必死で隠そうとする場面。
オチにはかなり笑えるし、青春の1ページとして、
彼らの同居生活にとって忘れられないエピソードになるんだろうなぁ。


帰国しても、結局また孤独を感じて、異邦人のように街を歩く場面も印象的だった。
食卓での母親との思い出話のシーンも、「あるある」な感じ。
結局、何があったかなんて、体験した自分にしか分からないんだな。

留学中の母国に残した恋人との関係、現地で出会ったフランス女性との不倫、
何より各国の友人たちとの価値観の衝突、
グザヴィエくんの留学した一年は、刺激的すぎる。
自分が観たかった現地の大学生たちの暮らしの一部も観れたし
作り話でも、自分のことのように楽しめた。

ラストシーンには、グザヴィエが異国での体験から学んだ、
人生の一番大事な部分が表れているようで観ていて気持ちよかった。

Radioheadの“No Surprises”が効果的に流れていて
切ない場面に一役買って出ていたのも印象的。

またこれ観てスペイン語覚えたい。

スパニッシュ・アパートメント [DVD]

20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


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by yuzuruzuy | 2010-12-22 19:08 | 映画

『ローズ・イン・タイドランド』

厳しい現実をもはねのける、子どもの力強い生命力こそ
私が敬愛する想像力の源だ。
テリー・ギリアム


『モンティ・パイソン』のテリー・ギリアム監督作品
モンティ・パイソンは「なんじゃこれ!」という作品だった。
そのテイストがそのまま、不思議の国のアリスの世界に組み合わさったような、
ブラックな寓話の物語。ダーク・ファンタジーと呼ばれるジャンルらしい。

主人公ローズは薬物中毒の両親を持ち、ある日母親は薬物の過剰投与で死んでしまう。
父親と旅に出たローズは荒野にたたずむ祖母の家で暮らし始める。
祖母はなくなっており家の中はボロボロ。
そして暮らし始めてすぐに父親もヘロインを注射したあと意識が戻らず、
孤独になったローズは想像の中で遊びだす。
そして、同じ荒野のレンガの家に住む奇妙な姉弟と出会う。

貧しさや身の回りの異常な出来事を、ローズは子どもの心でまっすぐ受けとめる。
それは大人から観れば狂っているように思える一方、心のどこかに響いてくる。
発想は子どもなのに、ときどきもの凄く大人っぽく思えるのは、
ローズが自分たちには見えないものを見ているからだろうか?

いろんな感情の源が詰まった映画。だからひと言では語れない。
出てくる人間全員どこかおかしくって、次々巻き起こる事件には現実と虚構の区別もない。
ダークでグロテスクな現実世界も、少女の目を通せば、おとぎ話の世界になってしまう。

この作品の世界を創っているのは、子どもが持つ“狂気”。
ギリアム監督はいくつになってもそれを持ち続け、信じ続ける監督のようだ。


一度だけじゃ分からないから、何度も読みたくなる大人のための絵本みたいな映画。


主人公の少女が『パコと魔法の絵本』のパコに似ていた。

ローズ・イン・タイドランド [DVD]

東北新社


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by yuzuruzuy | 2010-12-21 02:21 | 映画

20101220

人ごみで小走り思いのほか注目された


お爺に押し切られる万引き犯の無駄な抵抗


犯人かと思った方が目撃者


やってませんという言い訳あまりに無力


舌がヒリヒリ昨日のビビンバのせい


勝手な実写版のキャスティング話を小一時間


そこまでレモンを搾るとは


もう少し待てば文庫本で買えていた
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by yuzuruzuy | 2010-12-20 18:11 | つぶや句

『ノルウェイの森』

数年前読んだ原作の印象と、綺麗な映像と音楽に引き込まれたが、
正直なかなか感想の持ちにくい映画だった。
省略された部分も多いし、原作を読んでから観た方がいいと思う。
そして原作を受けつけない人は、映画も受けつけないんじゃないだろうか。

村上春樹作品のイメージなしでは、
主人公のワタナベ(松山ケンイチ)はただの女たらしになりかねず、
登場する女性たちの言動にも理解しがたいものがある。

原作を読んでいればストーリーよりも映像の綺麗さや実写化された作品の雰囲気に注目できるし、
そこを味わうための映像版と割り切って観ることで、『ノルウェイの森』の世界に浸った気分になれる。
あとはPG指定ということも忘れずに。こんな作品だったっけと思うくらい“その種”のシーンや台詞は多かった。まぁ現実じゃありえないような村上作品独特の喋り方などによって、小説のドライな感じは損なわれていないようにも思えた。そんな“村上春樹らしさ”を知らなければ「この人たち何言ってんの?」となりそう。

ここでは物語というよりも、小説世界が再現された“映像作品”としての感想に留めておこう。

個人的には、登場人物の横顔のカットが多くて印象的だった。
二人が並んで見つめあったり、遠近法で横顔同士がすれ違ったり、
作品通してなにかと重要な役割を持つ、“横顔で語る”場面が多かったと思う。
ミドリ(水原希子)とワタナベが大学食堂で初めて会話し、相席してきたミドリにワタナベが「ちょっと横向いて」と言って彼女の横顔を眺めるところがさりげなく心に残る場面。
ワタナベの横顔が映るたびに、松ケンの鼻は立派だなぁと思った。
ミドリ役の水原希子の横顔が切なくて良かった。
雪の中のワタナベとミドリの横顔の場面が綺麗で個人的に一番かなぁ。
松ケンは雪が似合うし、ミドリのニット帽姿にぐっ。
直子(菊池凛子)は、ちょっとかわいそすぎて、一番大事なところなんだけれども言葉にならない。
どんどん狂っていく儚い直子という役をあそこまで切なく演じた菊池凛子は凄い女優なんだなと思う。

他に印象的だったのは、直子からの手紙を受け取ったワタナベが学生寮の吹き抜けの階段を嬉しそうに駆け上がるのを下からクルクルとカメラが追いかけ、そのまま流れるような映像で風が吹く深緑の草原になる映像。本のページがパラパラとめくれていく感じでとても心に残る場面。

それから、ワタナベが直子を追いかけながら二人が歩く姿を横移動のカメラで追って映している場面がたくさんあり、そこに二人の関係が表れているようにも思えた。
直子はいつも早足でワタナベの先を行き、ワタナベは直子を一生懸命追いかける。
ミドリとワタナベの二人にも、歩きながら会話するのをカメラが追う場面がいくつかあった。
直接ぶつかることを避けるように、一定の距離を保ちながら接する登場人物たちの性質も表しているのかな。


後半は結構気分が沈んだ。
ワタナベが直子を失ったことの悲しみに暮れる場面はかなり劇的で意外といえば意外。
あんなに激しかったのかなと。もっと淡々とした無音の世界に近い絶望のイメージを自分は持っていた。
しかしその後の「悲しみ抜くしかないのだ」という台詞はグサリ。
こんなにも重く、切ない物語だったのかと気づく。

まだ気になったところを挙げると、
愛情についてミドリがワタナベに語る場面での、
ショートケーキを買ってきてもらってそれをぶん投げて、
次は何が欲しいのかまた聞いてもらう…というたとえ話が面白かった。
原作で探すとこのやりとりはp160にある。
買ってきたものをまたぶん投げられたら、男はまるでギリシア神話のシーシュポスだと思った。

他にも、さまざまな人物を通して、それぞれの“愛”を描いている作品。

ちょい役で糸井重里、細野晴臣、高橋幸宏が出ていておっ。
原作ファンのよしみとか?なのか??

ラストシーンの松ケンの緑セーターと赤電話は、
原作本の表紙を思わせた。

文章にしてみると、思ったより自分はこの映画を楽しめていたような気がしてきた。
僕は何ごとによらず文章にして書いてみないことには物事をうまく理解できないというタイプの人間なのだ。原作(上)p12

とりあえず、原作を読み直そう。

それでもう一回じっくり観たら、またなにか発見があるかも知れない。

村上作品の映画化はなかなか難しいのかなぁと思ったけれど、
これから他の作品も映画化するなら、『海辺のカフカ』は観たいなぁ。
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by yuzuruzuy | 2010-12-19 23:59 | 映画

プロフェッショナル グラフィックデザイナー 佐藤卓

数々のヒット商品を手がけるデザイナー・佐藤卓
クールミントガムやキシリトール、ゼナ、おいしい牛乳など、
強烈なインパクトは無いながらも長く愛される商品のパッケージデザインを生む秘訣。
“自分”を消す

デザインは主役ではなく、本来気づかなくたっていいもの。
あっと驚くようなものはプロとしてはできて当たり前。
生活者の感覚に自然と、すっと入り込めるデザインを生むのが醍醐味。
そのために
商品の“本質”をつかんで
それをそのままデザインにする。

ただ“変わったもの”ではなく、その全てに意味を持たせて納得させるようなデザイン。
使い易い“機能”を突き詰め、徹底的に消費者の感度に合わせつつ、商品開発者の思いをも大切にする。
そして、
物語を、込める。

遊び心を取り入れて、楽しんでもらえるように。
そうすることで愛着が湧き、手に取る人から長く愛される商品になる。

アイデアの気配
ここに何か可能性があるぞと、…気配を感じるかどうか。たぶんね、思いつくってね、気がつくってね、ほんのわずかなことなんで、結構みんなそんなことあるような気がするんですよ。ただそれを、こじ開ける…その可能性の穴をこう、グッグッとこじ開けて行ってみるっていう。でカタチにしていってだんだんこう、見えてきて、あっ、いけるかも…が、いける!に変わっていくわけですよね。

才能で勝負している世界の人たちはみんな言うけれど、本当に地道な作業なんだよな。
その“こじ開ける”チカラが、才能でもあるんだろう。

≪面白いものは“本質”をつかんでいる≫とつくづく思う。
だから多少無茶に見えたとしても、伝わってくるものがあるし、的から外れていない。
まずは徹底的に“本質”が何か?
それをまっすぐ見つめ続け、考え続けることだ。

放っておくと人はすぐ、流されて余所見をしがちなのだ。

商品はいつしかなくなってしまっても、デザインはいつまでも人々のココロに残る。
素敵な仕事をしているなぁ。

僕たちは、無意識のうちに、手触りや色、カタチなど、たくさんの情報をインプットした結果、
店頭で商品を手に取り、購入している。そこには必ず仕掛け人がいる。
なぜ自分がその商品を買ったのか、作り手の立場になって、じっくり考えてみよう。
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by yuzuruzuy | 2010-12-18 23:55 | 表現

『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』

スタンリー・キューブリック監督映画。

冷戦下の核戦争危機の状態をブラック・コメディにした作品。
異常事態のなかでの軍隊や政治家たちのやりとりに声を出してダハハと笑った。
反共産、反ソ連思想がいきすぎて妄想に取り憑かれたリッパー将軍がソ連に対する核爆撃を勝手に命令し部屋に立てこもる。
事態が明らかになるとアメリカ大統領は緊急会議を開きその場でソ連首相に電話する。
酔っ払ったりヒステリーを起こすソ連首相にファーストネームで呼びかけてなだめるようにやさしく話す大統領。“ごめん、実は、キミの国を爆撃しちゃうかも知れないんだ。”そんなノリにニヤニヤ。
自国の戦闘機を相手に“爆撃してくれ”だとか、ブラックすぎてニヤニヤ。
その場で、ソ連の「皆殺し」計画なるものも判明し、人類は一気に破滅の危機に立たされる。
危機から生き残る手段として奇妙な科学者ストレンジラブ博士が始めた熱弁は、炭鉱の中に避難し、地上の放射能がなくなるのを待つというもの。安部公房『方舟さくら丸』じゃないか。
誰がその中に入るかについての博士の語りも、一夫一婦制は無視してもいいだとか、優れた人間をコンピューターで選び出すなどなど、めちゃくちゃブラックでニヤニヤ。
終いには興奮した博士は車椅子から立ち上がり、“総統!歩けます!”と絶叫。
そしてエンディングで流れるゆったりとしたジャズと何発もの核爆発の炸裂映像。
ドタバタ劇に笑った後、どう反応していいのやら複雑な気持ちになり、考えさせられる。
表じゃ真剣に地球の危機を叫びながら、結局そんなに考えてない人間の異常さと滑稽さ。

リッパー将軍の立てこもりに巻き込まれ、なんとか止めようとするイギリスのマンドレイク大佐。
元ヒトラー崇拝者らしき狂ったドイツ人科学者、ストレンジラブ博士(原題の『Dr.Strangelove ...』はここから)。
軍隊の筋肉おバカさん丸出しのタージドソン将軍(Turgidson;肥大化した息子)。個人的にツボ。
核爆弾“Hi,There!”に馬乗りになって「ヒャッホー!」と絶叫しながら墜落していくコング少佐。
などなど登場人物のキャラが濃すぎて、白黒とは思えないほど鮮烈な印象の映画。
それらの人物たちから、可笑しさだけではなく、切なさや悲しみ、恐怖も感じさせられる。笑いの懐が深い…。
役者の演技も凄まじく、観ているときは全然気がつかなかったけれど、
大統領、ストレンジラブ博士、マンドレイク大佐は1人3役で、
『ピンクパンサー』の警部役で有名なピーター・セラーズが演じていた。
あんな個性的な役柄を見事に演じ分けるとは、『ピンクパンサー』も見たくなった。

キノコ雲のシーンなどは、原爆資料館などでよく見る映像。コメディで使えば不愉快になる人も多いかも知れない。しかしこれはイギリス映画。
争いを好まず機関銃の使い方も分からないイギリスのマンドレイク大佐の目線で、
アメリカ側にもソ連側どちらにも立たない位置からの冷戦状態の核開発競争を上手く皮肉った作品だろう。
“国民を守る、平和を保つ”という使命を掲げながら、地球を自ら滅ぼす力を手にした、人類自体を皮肉っている。

自分は核問題については少しだけど勉強していて、核抑止力についても考えてきた。
そんな一見深刻な問題を、ここまで冷静に捉えてコメディにしてしまうとはキューブリック恐るべし。
ブラックユーモアの真髄をみた気がする。世界はいつでも、喜劇の舞台なのだ。

『時計じかけのオレンジ』も最高だったが、これまた名作。
“Ridiculous”(途方もなくばかげている)という単語が頭に浮かんできた。

博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を・愛する・ようになったか [DVD]

ソニー・ピクチャーズエンタテインメント


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by yuzuruzuy | 2010-12-17 23:47 | 映画

『惑星ソラリス』

旧ソ連の巨匠タルコフスキー監督によるSF映画代表作。

SF好きの爆笑問題太田がたびたび話題に挙げていたので観てみた。

感想は、はっきり言って退屈。
第一部、二部と分かれていたので区切りは良かったものの、
約160分という長時間ぶっ通しで見るにはしんどいものがある。
だからといって、価値のない映画とはいいきれないのだが。

前半は特に展開もなく、地球上らしき映像が流れた後、突然主人公が惑星ソラリスの宇宙ステーションに到着する。未来の地球の都市のイメージなのか、東京の首都高の映像が延々と流れるシーンもある。

後半は主人公が、ステーション内で奇怪な心理的な現象を目の当たりにする。
記憶の中の人間が物質化して生き返る発想は、『黄泉がえり』を思い出した。
さらに、主人公が呼び戻したのは過去に自殺した妻で、現実ではないと知りながらも愛してしまう展開は、『インセプション』を思い起こさせる。それだけ影響があった作品といえるのだろうか。
さまざまなアイディアが再利用されてきた現代で見るなら、いくらかハードルを下げる必要があるのかもしれない。それにしても台詞が少ないし、音楽もなくて間延びしている。
終盤には結構深い台詞を言っているんだけれどなぁ。
ロシア語のせいなのか抑揚がなさすぎてキツイ。
直前に見たのが『時計じかけのオレンジ』だったというのも悪かったかなぁ?

あと、結末も理解不能だった。
うーん、一度じゃ分からない映画なのかなぁ。
調べてみたら、タルコフスキーは意図的に観客を退屈させるようにして作ったと話しているらしく、他にそれなりの狙いがあるとすれば少し安心。

良かったのは無重力状態の浮遊映像かな。不思議な感じだった。ソラリスの海も神秘的。
スナウト博士の誕生日祝いの席の図書室での含蓄のある会話シーンは特にじっくりみる価値がある。
ドストエフスキーっぽい、哲学的な会話のシーン。冷戦時の宇宙競争を皮肉るかのように、ドンキ・ホーテが引用されてたりする。
その後の窓からソラリスの海を眺めながら主人公が語るシーン、そして妻が消えた後の会話も印象的。
人間には秘密が必要だとか知識は人を不安にするとかなんとか。
幸福の秘密、死の秘密、愛の秘密…それらを人間は科学や理性を使って解こうとしてきた。
それに対するアンチテーゼとも受け取れる。
とにかくこのラスト約40分がダイジェストだと思う。

タルコフスキーを知るために他の作品も見てみるしかないかなぁ。
レンタルにはあんまり置いてないみたいだけど。

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by yuzuruzuy | 2010-12-15 06:38 | 映画

『プリズンホテル 【1】 夏』 浅田次郎

 浅田次郎の小説はどれもクスッときて、ホロッとくる。今回もラストにかけてジワジワと鳥肌がたった。従業員から客まで“わけあり”ばかりの、任侠から心霊までなんでもありな奥湯元あじさいホテル。そこで巻き起こる大騒動。出てくる登場人物たちには悉くクセがあり、人間味にあふれている。そんな人物たちが不器用に動き回り、家族の絆、男と女の生き様について紡ぐ物語。涙なしでは読めない人間ドラマ。大げさに言うけど。
 構成的には売れっ子小説家・木戸孝之介のストーリーがメイン。この名前は、売れない作家時代の浅田次郎のペンネームらしい。その孝之介の唯一の身内である叔父は、あじさいホテルのオーナーであり、ヤクザの大親分・仲蔵。父の法事で久しぶりに出会った二人。仲蔵は自らのホテルに甥っ子を招く。そのホテルの従業員はヤクザの子分やフィリピン人などなど。大手・クラウンホテルから山奥のホテルに左遷同然に送られてきた支配人と天才シェフ。
 客には任侠団体をはじめ、普通の客には停年直後の夫との離婚を妻が計画している夫婦、心中志願の一家に謎の旅人など、話を聞けばネタは尽きないほどのストーリーの持ち主たち。そのいくつものストーリーが重なり合って、予測不能な展開が待っている。
 ドタバタ劇の途中で息をつかせるような周りの風景描写も、文章の間として、よく効いている。自分が一番感情移入したのは、周りから見れば熱すぎる信念が裏目裏目に出てここまできた、花沢支配人。この人の不器用な真っ直ぐさが、任侠の世界の人には確かに伝わり、彼はようやく居場所を見つけたようだった。その支配人が自分がプリズンホテルに来た本当の理由をオーナーの仲蔵から聞かされる場面が一番好き。
「─(省略)─。10年前ェに赤坂クラウンを水びたしにしちまったそそっかしいヤツ。行く先々で支配人とやり合って、ひとところに一年と落ち着けねえ放浪のホテルマン。そのくせお客からは山のようにお礼状や宅配便が届いて──届くころにゃ本人はおっつけどこかに飛ばされてるってぇ、おめでたい男さ。おい花沢。善悪と大小は別物だぞ。悪かったのはいつもおめえじゃねえ。クラウンホテルの方だ。」
 仲蔵が去った後、花沢はヤクザのカシラでもある黒田副支配人と、黙ってウイスキーを飲み交わす。沁みるシーンだなぁ。
 出てくる人物たちが、男気があるだけでなく、いかついヤクザの黒田が実は心霊に弱くて晒しの下にお守りをつめているだの。作者の口から彼らの隠れた弱点を見せるから、また愛着がわくんだろうな。みんな、人には見えないところで悩んでいるのだ。
 浅田次郎は感情移入しやすいし、人におすすめしたい作家だと思う。人情とは程遠い安部公房を読んでいたから余計にそう思うのだろう。何より読みやすい。実は1巻は結構前に読んで、全4巻揃えたまま止まっていたので、次も読み進めていこう。


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by yuzuruzuy | 2010-12-14 18:33 | 読書


つまらない、面倒くさいを、面白く。


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