『ミケランジェロの生涯』 ロマン・ロラン

 ヴァチカン・システィーナ礼拝堂の最後の審判、フィレンツェのダヴィデ像。それらを目の当たりにしたとき、ミケランジェロとは、どれほど力強い男だったのだろうかと思った。しかし、この本の中にいるのは、残された偉大な作品からは想像できないほど“弱い人間”だった。決断力がなく、家族や金銭について思い悩み、いつも何かから逃げている男。“天才”という呼び名の影には、誰しも持っている最も人間らしい部分が隠れていた。著者は序文でこう述べる。
人生のみじめさや魂の弱さから眼をそらすような臆病な理想主義を私は嫌う。大げさな言葉で瞞されやすい幻にすぐこころひかれる一般人に対して言わなければならない。勇ましい虚言は卑怯であると。世界に真の勇気(ヒロイズム)はただ一つしかない。世界をあるがままにみることである。──そうしてそれを愛することである。(p.4)
 ロランの力強い文章からは、自分と重ねあわせるかのような、ミケランジェロへの思いが伝わってきた。ミケランジェロ自身の言葉や、詩も引用されている。それらはどこか厭世的で、いつも死を意識しているようだった。甥のリオナルドが息子の誕生を祝ったことに対する言葉。
「そんな虚飾は私は嫌いだ。世の中全部が泣いている時に笑うことは許されない。生まれたばかりの者のためにこのような祝いをするのは無意味だ。立派に生きた一人の人間が死ぬ日のためにその歓びをとっておくべきだ。」(p.123)
 自らの才能がもたらす運命に振り回されるように生きたミケランジェロだから言える言葉だと思う。
天才なる者を信じない人、天才とはどんなものかを知らない人は、ミケランジェロを見るがいい。彼ほどそれの餌食となったものはかつてない。─(中略)─これは熱狂的な激昂であり、それを支え保つにしてはあまりにも弱すぎる肉体と魂のなかに巣喰う恐ろしい生命であった。(p.13)
 登場人物や都市の名前など、知識がなくては分かりづらい部分も多いけれど、この本を読んでからミケランジェロの壮絶な生涯と意外な人物像を知り、彼の作品を目の前にすると、より深く沁み込んでくると思う。
 弱さも才能だ。
 ミケランジェロも、弱かった。
 

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by yuzuruzuy | 2011-05-13 17:56 | 読書


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