『水中都市・デンドロカカリヤ』 安部公房

 新潮文庫の安部公房 15冊目まで来ました。今出版されているもので残すは1冊。
 安部公房の初期短編11編。感想を簡単に。

≪デンドロカカリヤ≫
 不気味な語り口で綴られた、“コモン君がデンドロカカリヤになった話”。
ぼくらはみんな、不安の向うに一本の植物をもっている。伝染病かもしれないね。植物になったという人の話が、近頃めっきり増えたようだよ。(p.9)
 “植物になる”ということが、現在の喪失、自殺した人間、精神分裂などのパラフレーズとして使われているのかな。結末にはゾッとした。

≪手≫
 この物語の展開には思わず唸ってしまった。かつての伝書鳩“おれ”が、観念化され銅像となり、さらにその銅像の足首を鋸で切ろうとしている“手”。この設定だけでも脱帽したくなるのだが、そこからさらにストーリーが加わっていく。なんとも言えない読後感を味わった。

≪飢えた皮膚≫
 貧乏人が金持ち夫人に復讐する話。夫人が薬物にはまっていく姿がブラックに描かれている。身体の色が変わってしまう病気というアイディアが安部公房らしい。

≪詩人の生涯≫
 糸車に巻き込まれた老婆が糸になり、その糸からジャケツが作られる。買い手もなく彷徨いはじめたジャケツは、詩人である息子の前に立つ。冬の厳しい寒さと春の訪れを感じさせる文章が印象深い。

≪空中楼閣≫
 無職の男のアパートの前に貼られていた“空中楼閣建設事務所”の工員募集。実体のない職業に、採用されたと思い込んだ男はどんどん狂っていく。

≪闖入者≫
 夜更けに突然やってきて、住み込み始めた闖入者9人家族。彼らをなんとかして追い出そうと、男は奮闘する。この設定も怖いな…特に一人暮らしには。都市伝説とかでありそう。孤独になっていく現代社会の生への皮肉だと思う。

≪ノアの方舟≫
私はノア先生を見捨て、方舟を見捨て、そして村を永久に去ることにしました。今となって、私にねがえることはただ、この愚かなアル中患者に関する伝説が、せめて誤り伝えられぬことをねがうだけでした。
 この最後の文章がすべてを語っている気がする。ノア先生のめちゃくちゃな天地創造論も面白かった。

≪プルートーのわな≫
 猫に鈴をつけに行くのは誰だ?安部公房版イソップ童話。

≪水中都市≫
 魚になるとは、どういうことか?父親を名乗る男が、魚になっていく描写は、生臭ささえ漂ってくるようで、想像するとかなりグロテスク。

≪鉄砲屋≫
 安部公房には珍しい、政治色が濃い作品。その中でも、“雁もどき”の大群の襲来に備えて銃を売るという、奇想天外なアイディアで異世界感たっぷり。

≪イソップの裁判≫
 少し分かりにくかったけど、“噂”というもののいい加減さを皮肉った作品なのかな。


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by yuzuruzuy | 2011-03-11 19:32 | 読書


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