『カンガルー・ノート』 安部公房

 最近また安部公房に夢中。寒くなるとなぜか読み易くなるのは、孤独な主人公の冷たい目線で書かれた文章のせいだろうか。安部公房最後の長編。
 脛から≪かいわれ大根≫が自生し始めた男…期待を裏切らない発想だ。≪かいわれ大根≫は数本生えているくらいなのかと思ったら、どんどん成長してジャングルのように密生する。読んでいてもなかなかグロテスクで、それを見た、朝食に納豆とかいわれの和え物を食べた医者は、吐き出してしまう。サウスパークっぽいな。つまりブラックな笑いでいっぱい。自分の≪かいわれ大根≫を食べて生きていこうかなどと考えた場面は、『方舟さくら丸』のユープケッチャと繋がった。これまで安部公房を読んできたので、分かりやすい。安部公房作品の中でも読みやすいほうだと思った。

 受診した病院のベッドがドラゴンボールの筋斗雲のように主人公の男になついて、そのベッドに乗って、夢のような世界を移動する。三途の川や賽の河原も出てきて、あの世までネタにするのかこの人は、と笑うしかない。後半には、安楽死についての問題も出てきて、“死”がテーマとなっている。
 いちばん興味深かったのが、ピンク・フロイドの曲が何度か出てきたこと。安部公房は彼らの大ファンだったらしい。安部公房の小説と、ピンクフロイドの楽曲、確かに繋がる部分がある気がしていた。
『エコーズ』ならぼくの大好きな曲である。夜、神経に逆毛が立って、眠たいのに寝られないようなとき、この曲はけっこう有効なのだ。狂気の静寂ってやつかな。p205
 ドナルド・キーンが書いた解説も自分も共感する部分や、新たに発見するところが多く、面白かった。
現代日本の小説家の中で一番自分の体験や自分の感情を隠したのは安部さんであった。

安部さんは決して冷い人間ではなかったが、多くの作家が自分の感情を誇張した形で小説に盛り込むことに反して、はにかみ屋だった安部さんは自分の深い感情の周囲に数多くの壁を立て、壁の中に隠されている自分を発見できる読者を待っていた。 “解説”p217
安部公房は壁の向こうで待っている…まだまだ深く読まなければ。


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by yuzuruzuy | 2010-12-05 21:57 | 読書


つまらない、面倒くさいを、面白く。


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