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『ペンギン村に陽は落ちて』 高橋源一郎

 なんてチャーミングなタイトルなんだろう。ペンギン村といえばDr.スランプアラレちゃん。出てくるのは千兵衛博士やDr.マシリトにニコチャン大王などなど。ほよよ?でもどこかおかしいぞ?博士がつくったロボットの名前は鉄腕アトム。しかもペンギン村の人々は夢を見る病気にかかって、現実のペンギン村と夢のペンギン村の間で狂ったように生きている。
 途中からサザエさんやウルトラマン、ドラえもんにキン肉マンらも登場するが、みんなマンガやTVの世界の設定を無視して暴走し始めた。名前だけはとてもなじみがあるキャラクターたち。でも名前以外はほとんど別人。サザエさんはお色気丸出しだし、ケンシロウ(北斗の拳)は「なめなめ」やら「しゃぶしゃぶ」やら意味不明な言葉を連発。キン肉犬にキン肉鼠…なんじゃそれ。ハチャメチャでブラックな要素満載で原作の世界観をぶち壊しているのにも関わらず、キャラクターたちはマンガの世界同様かそれ以上にイキイキしている気もする。彼らも生きているんだなという気になってくる。
 マンガの世界で小説を書いたということに意味があるのだろうか?20年前の小説としては、かなり実験的な作品だったのだろうな。無理だと思うけど、この小説をこのままアニメ化したなら、日本版サウスパークになりそう。
 『「悪」と戦う』でも実際の絵本などを引用していたし、高橋源一郎は、ポップカルチャーを積極的にというか、かなり過激に、小説に取り込んでいる作家なのか。
 あんまり考えすぎると本当にわけが分からなくなって、ドラえもんの章で出てきた、自分を精神科医だと思い込んでいる精神病患者のエピソードみたいになってしまいそうなので、感想も軽めにしておこう。
 作者のあとがきで谷川俊太郎の「百三歳になったアトム」という詩が引用されていた。『13日間で名文…』でも自分で言ってたけど、引用好きだな高橋さん。その詩につづけて書かれていた文を抜粋。
このアトムは、もちろん、「あの」鉄腕アトム。でも、この詩のアトムは、どんな人間よりも切ない存在であるような気がする。それは、なぜだろう。おそらく、それは、アトムが(マンガの中の)ロボットだから不死で、だからこそ、いつまでもいつまでも人間なんかより限度を超えて「死」というものについて考えつづけることができるからだ。──省略──(マンガの中の)ロボットだから、人間でもっとも大切な「魂」というものがないことに悩んでいるからだ。──省略──マンガの存在。だからこそ、人間以上に、人間よりずっと、自分が人間であることに疑いを感じないほとんどの人間よりずっと、真剣に悩むことができるのである

この『ペンギン村に陽は落ちて』の登場人物(?)たちより人間的なキャラクターを、ぼくはいまだに書けないでいる。
 この文章中の“マンガ”を“小説”に置き換えると、この小説が書かれた理由が、なんとなく分かる気がする。子どもの頃マンガの最終回を読んだときのように、最後はとても切なくなった。


by yuzuruzuy | 2010-12-03 20:59 | 読書


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