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『「悪」と戦う』 高橋源一郎

 この前読んだ『13日間で「名文」を書けるようになる方法』の中で言及されていた、著者の子供をモデルに書かれた小説。「悪」ってなんだろう?まず題名を読んでそう思った。この世の「悪」、戦争?テロ?殺人犯?偽善者?それとももっと分かりにくい哲学的な何か?難解な文章を覚悟して読み始めると、あまりの読みやすさに、肩透かしを食らう。寝る前の子供に絵本を読み聞かせている親のような話し言葉で書かれている。
 プロローグ~1、2章まで、語り手は小説家の父親(わたし)。次男のキイちゃん(1歳半)の言葉の発達を心配している。
長男のランちゃんだけがキイちゃんの「どっ」とか「だっだっ」とかいう言葉がわかる。心配してるわたしをよそに、奥さんはどっしり構えてわが子の成長を見守っている。ところどころ、というかほとんど、『13日間で「名文」…』に書かれていたエピソードと同じ。この部分を書いたのと、実際の体験と、どちらが先だったんだろう?実際の体験があったあと、加筆修正されたんだろうけど。
 “わたし”(父親)は、買い物の途中、“ミアちゃん”という、奇形の顔を持った少女を見かける。誰もが視線を逸らしてしまうその少女の顔を、一瞬「美しい」と思った“わたし”。しばらくたったある日、2人の子供と一緒に行った近くの公園で、わたしは再びミアちゃんと出会う。砂場で一緒に遊んでいる子供たちを眺めて、わたしの隣で、ミアちゃんのお母さんがつぶやく。「わたしは『悪』と戦っているのです」。あらすじはここまで。
 ここから物語はすっかり変わってしまう。簡単に言うなら、弟のキイちゃんを助けるために、長男ランちゃんが、マホさんという女性に導かれて、いろいろな(ここが重要)カタチで、『悪』と戦う(戦っているのだと思われる)。そこに、ミアちゃんが深く関わっているといった具合。それは夢なのか?未来なのか?存在するもうひとつの世界なのか?分からない、そしてなぜそんなことやらされているのか?しかし登場人物がほとんど“こども”。きっとどこかの“こども”の世界なのだろう。
ぼくは、ほんとうに、あくとたたかったんだろうか?ぼくは、なにをおいてきたんだろう?わからない。それから、あくって、なんかかなしいね。それから、なんか、あくって、そんなにわるくないきがするんだよ。あくって、ほんとに、あくなのかな……。p275
うーむ。よく分からない。中には、イジメとか虐待のような重いテーマも含まれているようで、それらは、「悪」のなかに含まれている気もする。でも、それを一方的に「悪」だと決めてしまう「正義」のほうも、実は「悪」なんじゃないか?
ねぇ、もしかしたら、「悪」の方が正しいんじゃないかって、ちょっとだけ、ぼくには思えたよ、マホさん。だったら、ぼくは、正しい「悪」をやっつけちゃったのかもしれない。じゃあ、ぼくの方が、ほんものの「悪」じゃん<!違うのかなあ、マホさん。

ぼくがそう訊いたら、マホさんはどう答えるだろうか。決まってるよね。

「べビちゃん、ユーが、自分で考えな!」って。p270-271
 このマホさんの正体にも、考えさせられた。分かってから、さらに考えさせられるものがあった。「悪」ってなんだろう?
世界のほとんどは「善」と「悪」に分けられているようだけど、それを疑ってみる。マイケル=サンデルの授業だったり、太田光の『マボロシの鳥』のテーマにも重なる気がした。「善」と「悪」も、もともとはどこかで繋がっているのだろう。


by yuzuruzuy | 2010-11-19 20:10 | 読書


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