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『ソフィーの世界』 ヨースタイン・ゴルデル

 高校生か中学生のとき、学級文庫に置いてあったこの本。ゾフィー?いやソフィーの世界?読書などまったくしなかった僕は手に取ることもなかったが、記憶の片隅にその幻想的なタイトルだけは残っていた。大学の古本市で見つけて、その分厚い本を初めて手にとって約一年、ようやく読み始め、一気に読み終えた。
 テーマは哲学。ふむふむ、いつか僕が哲学にのめり込むだろうと、あの教室に誰かの手によってこの本は置かれていたというわけか。内容は、ファンタジー。ふむふむ、空想文学にのめり込むであろう僕のために…以下同文。
 ある日ソフィーは、謎の手紙を郵便受けに見つける。それは、ある哲学者からの哲学講義の手紙だった。“あなたはだれ?”何処からともなく、いつもソフィーの手元に届く手紙によって、ソフィーは哲学の世界にのめり込み、自分とは何か、問い続けて行く。
 哲学講義の手紙を通して、ソフィーとともに読者はソクラテスやアリストテレス、デカルト、カント、フロイトといった哲学者の考えを学んでいく。それと並行して、ソフィーの身の回りで起こる数々の謎の種明かしがされていくミステリー。その過程で読者は自分自身の存在についても考えざるを得なくなる。
 ここで種明かししたらこれから読む人にはつまらない。僕はこの本を読みながら、過去にTVゲームのスターオーシャン3をやりながら陥った感覚と同じものを味わった。自分の存在ってなんだろう?
 そして、僕はいつから自分の存在を意識するようになったのか考え始めたら、ひとつの風景を思い出した。小さな頃、実家の小さな庭に植えられていたタマサンゴのオレンジ色の実をちぎっては家の前の田んぼに投げて遊んでいた。あるとき、その実を投げながら、
“僕はなんで僕なんじゃろ?”と考え始めていた。
“もし僕が僕じゃなかったら、トムとかいう名前で金髪の外国人の子供として、どっか知らん場所で知らん両親と暮らしとるんかな?”
“でももし僕が僕じゃなかったら、僕は生きとらんかも知れん。それとも僕じゃない誰かが、トムが僕だったかも知れん。”
“じゃあ何で僕は僕として今ここで生きとるんじゃろ?”
 その時期、僕は祖父から原爆の話とか、昔死んだ人の話とか聞かされて、夜中にいきなり怖くなって、どうせ死ぬなら一瞬で消えて死ねたらいいのにとか思っていた。それが、僕の哲学との出会いだと思う。そんなことしばらく忘れて生きてきて、また考え始めたのは実家を離れてから。
 だれでも、そんな自分の存在について疑問をもつ瞬間はあるんじゃないかなぁ。まだ小さかったので、そのとき僕はそれほど深く考えなかったけど。大人になったら、“そんなこと分かるわけない”と、多くの人が忘れてしまうのだ。15歳の誕生日を迎えるソフィーに呼びかけるかたちで、大人たちにこの本は語りかけている。
わたしたちは子どものうちに、この世界に驚く能力を失ってしまうらしい。それによって、わたしたちは大切な何かを失う。哲学者たちは、その何かをもう一度目覚めさせようとします。なぜなら、わたしたちの心のどこかで何かが、生きていることは大きな謎だ、と語りかけているからです。わたしたちは、生きることについて考えるのを学ぶずっと以前から、この語りかけを聞いているのです。

わたしは、ほかでもないソフィーが、投げやりで無関心な人びとの仲間であってほしくない。はつらつと生きる人であってほしいのです。
 この哲学者からの手紙によってソフィーも自分の存在を疑い始める。すくなくとも“この世界に驚く能力”がわずかでも残っている人には、哲学者たちの歴史について、ソフィーと一緒に学んでみることをお勧めしたい。それが作者がこの作品を書いた理由だと思う。
 正直、途中から、哲学の方に話が偏りすぎて、退屈になる部分もあった。それでも、平易なたとえで、なんとなくでも、哲学者たちの考えを今の自分の考えと重ね合わせることができたし、その歴史の積み重ねは、まるで自分自身がこれまで考えてきた哲学的問題が再現されていくような体験とも思える。
 まぁ難しく考えるよりも、ミステリー小説の謎解き要素を楽しみながら、そちらをモチベーションにして、哲学史のほうは覚えられなくても大まかに知れたらいいや、というくらいで初心に帰って赤鉛筆片手に読んだ。その後で気になった部分は読み返したり、ひとりの哲学者についてピンポイントで詳しく読めばいいと思う。そういった意味では、解説の“世界一やさしい哲学の本”というのも、肯けるかな。。
 哲学史と文学をうまくミックスして物語にした作者は素直に凄いと思った(上から目線)。哲学に興味(これ前提)があったら読んでみてください。


by yuzuruzuy | 2010-11-08 13:15 | 読書


つまらない、面倒くさいを、面白く。


by yuzuruzuy

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