変身

主演 森山未來
舞台版 カフカの『変身』

留学中NYのブロードウェイでミュージカル『美女と野獣』は観たけど、自発的に観たくて観に行く本格的な演劇はこれが初めて。昨年から今年にかけて読んでいたカフカ小説の舞台。しかも主演が、いつかのしゃべくり7で武田鉄也もその演技力を絶賛していた森山未來とあって、プレオーダーで注文した。運よくチケットが取れたので、行ってきた。

勝手なイメージで、舞台には部屋の細かい手の込んだ家具や装飾があるのかと予想していたけど、セットは両親や妹などの、登場人物が座る椅子と、虫の骨格をイメージしたような、グレゴールの部屋を取り囲む鉄の骨組みのみで、音楽と照明で、その場面の状況を観客に自然と想像させるような演出だった。観る人それぞれが自分の想像で部屋の情景を生み出せて、より入り込める。その鉄棒と、高い身体能力を最大限に使い、虫の動きを表現する森山未來の演技が鳥肌モノだった。指先など身体の細かい部分や、すべての関節の動きに注目させるような演技で、舞台上で一人、完全に人間ではない何モノかに化けていた。THE表現者。もろ素人の感想だけど、一時間半以上舞台上にいて、何百人に見つめられながら、物語の中にその人たちを引き込んで、ぶっ通しで演技し続けるってことがまず凄い。あらかじめ完成された世界に引き込む小説や映画に対し、作り上げていく過程に観客をダイレクトに連れ込んで作り上げていくのが演劇。役者のプレッシャーは尋常じゃないだろうな。映画にはない緊張感がぴーんと劇場に張り詰めている。

TVや映画では味わえない生きた演技に触れたくて見に行ったけど、そんな冷静な比較もできないほど、想像以上に引き込まれた。カラダが震える。これがLIVEのチカラだぁ。何でもTVやインターネットなどのメディアを通して何でも触れた気になれる世の中だけど、同じ空間で、同じ空気を通してしか感じられないものも大事にしないとな。音楽ライブや海外のサッカーなどを実際に体感してきたここ数年、そういうことを感じています。こんな時代だからこそ、よりホンモノが求められるべきだと思う。3Dが注目されるのもうなずける。でもそれだってあくまでもバーチャルじゃもん。

小説では感じることができなかった登場人物の内面の深い部分まで、演者によって伝わってきた。
戸惑いながらも兄を助けようとする妹グレタの葛藤だったり
母親という役割に縛られたような、表面的な母の愛情だったり
息子に支えてこられながらも、最後まで強情な父親だったり
家族がそれぞれ“孤独”な部分を背負っていて、それらを一気に引き受けて
グレゴールは大きな虫になってしまったのかもしれない。
『変身』は、現代で言えば引きこもりの小説だったんだな。
今回の舞台を観て再発見。
虫になった息子を世間から隠し、次第に邪魔者扱いする家族。
家族の気持ちを知りながら、対話をすることさえできない主人公。
溝は深まる一方で、人間だという記憶さえも危うくなり、
狭い部屋の中を這いずりまわるしかなくなっていく。
起きたら虫になっているという奇抜な発想の裏には
カフカが持っていた深い孤独があったのだ。
だから僕たちは、“変なの!”と思いながらも、共感せざるを得ないんだと思う。


“自由に!自由に!!”

最初から最後まで、悪夢から逃れられずに
孤独の内に死んでいったグレゴールの叫びは
カフカ自身の叫びでもあったのだろう。

公演後の、渦巻くような拍手喝采。
それをほぼ一身に浴びる森山未來(他の演者もいたけど)。
もしも、もしもしもしも、この拍手がすべて自分のためだったなら、
鳴り止むと同時にポックリ死んでもいいと思いつつ、客席で自然と手を叩いている僕がいました。

役者も、歌手も、何かを表現するには、命がけでやってこそ伝わるんだろうな。

言葉にならない、こんな瞬間を生み出すために、生きてみたいもんじゃ。
[PR]
by yuzuruzuy | 2010-04-03 04:39 | 表現


つまらない、面倒くさいを、面白く。


by yuzuruzuy

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

最新の記事

さらば
at 2014-09-25 04:35
きょうこそ
at 2014-07-04 01:31
イタいのイタいの、飛んでいけ!
at 2014-06-14 23:03
いろいろあるけれど
at 2014-06-05 03:56
「ママ、しまじろうのお顔、ご..
at 2014-05-04 01:25

以前の記事

2014年 09月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2013年 11月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
more...

カテゴリ

全体
日記
独り言
つぶや句
読書
映画
広告
写真
表現
SLT
夢日記
屋久島
自転車de東京
欧州一人旅
回文
未分類

タグ

検索

我的書架

ブクログ

人気ジャンル

外部リンク

記事ランキング