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影をなくした男

 古本屋で背表紙をみたとき、ビビッと脳が反応した。昔読んだ本か何かで“シャミッソー、影をなくした男”という言葉が出てきた気がするけど、何だっただろう。とにかく気になって読んだ。しかし、結局思い出せない。
 影を失う男というのは安倍公房的な発想。シャミッソーのほうが大先輩だけど。四次元ポケットとか魔法の靴みたいな子供向けの発想もおもしろい。子供に聞かせるための物語として作られたらしく、わかりやすかった。
 主人公の男、ペーター・シュレミールは限りなく金が出てくる魔法の袋と引き換えに、自分の影を悪魔に売ってしまい、影がないせいで世間の冷たい仕打ちにあう。影を取り戻すには悪魔の契約書にサインして、魂を売らなくてはならない。それを拒んだ男は影をなくしたまま、一世一代の恋も失い、絶望して旅に出る。何度も悪魔の誘惑にあいながらも、最後には決心し、悪魔に立ち去れと命じた。取引道具の魔法の袋も投げ捨てて、影を失くし、金も失くし男はそれでも旅を続けた。
 この先が何とも予想外。魔法の靴を手に入れた主人公の冒険が始まる。いきなり話が変わりすぎなきもしたけど、子供向けだとしたらそれも良い。カバー説明にあったメルヘンタッチという意味が分かった。
 作者が言いたかったのは、お金のために魂は売るなということだろうか?大金持ち代名詞として登場したヨーン氏の、魂を悪魔に奪われた醜い姿と、“神ノ義ニヨッテ裁カレ、神ノ義ニヨッテ罰セラレタ”という言葉は金がすべてとなってしまった現代社会への強烈な皮肉。
 あとがきにもあったように、悪魔のささやきに惑わされながら自分自身と戦う構成はゲーテの『ファウスト』を思い出した。聖書でキリストが悪魔に立ち去れと言った場面がモチーフとなっているのかな。当たり前なようで普段気づかない影でも、失ってしまったら世界からのけ者にされた感覚になるのだろうか。
シュレミールよ、ぼくたちはへこたれない
行く手を見はるかし、さえぎるものを容赦しない
立ち騒ぐ世間に目もくれず
ともにしっかり手を組んで
一歩でも目標に近づこう
笑いたくば笑え、謗りたくば謗れ
嵐のはてにぼくたちは港へと往きついて
心ゆくまま安らかな眠りを眠る
巻末「わが友ペーター・シュレミール」より
影をなくした男_d0137443_9553517.jpg

by yuzuruzuy | 2009-12-23 09:57 | 読書


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